寿司職人ブログ

人生真ん中あたり

パラダイムシフトが起こるか?アルツハイマー病の発症とあのウイルスの感染について

 7/6に発表されたニュースは市場に衝撃を与えました。そのニュースとは、日本の製薬会社のエーザイ社とアメリカの製薬会社であるバイオジェン社が開発しているアルツハイマー認知症の疾患修飾薬であるBAN2401(成分名aducanumab)が臨床第Ⅱ相試験で有効性を証明した、というものです。

アルツハイマー認知症の新薬の開発には多くの巨大製薬企業が長年、莫大な費用をかけてチャレンジしてきましたが、結果は屍累々、といった有様でした。最近ではアストラゼネカ社、イーライリリー社といった世界でも指折りの大企業が開発を断念したということが伝えられ、医薬品業界では「やはりアルツハイマー認知症の根本治療・発症予防に繋がる新薬の開発は無理なのか?」と悲観論が蔓延していたようです。そんなところ、降って湧いてきた、このエーザイ/バイオジェン社のニュースです。アルツハイマー認知症の新薬開発に一筋の光明が差してきました。アナリストもこんな記事を書いて、期待に胸を膨らませています。うまくいくといいですけどね。

 このBAN2401のみならず、ほぼ全てのアルツハイマー認知症の新薬候補物質は「アミロイド仮説」を下敷きにしています。アミロイド仮説、すなわちアルツハイマー認知症の発症において最も重要な鍵を握るのはアミロイドβと呼ばれるタンパク質であり、このタンパク質の産生や凝集を阻害してやればアルツハイマー認知症が予防/治療できるのではないかという仮説です。BAN2401は凝集したアミロイドβを分解する抗体医薬品であり、BAN2401の成功はまさにこのアミロイド仮説が正しかったことの証明ともなるのであります。

 ある薬が世に出るためには、前臨床つまり動物実験を経て、健康な人を対象にして安全性を確認して至適用量を定めるための第1相試験〜少人数の対象疾患患者で効果と安全性をみる第2相試験〜大人数の対象疾患患者を集めて効果と安全性を確認する第3相試験という段階を経て、当局(日本ではPMDA:医薬品医療機器総合機構)に申請し種々の審議を経て承認がおりる必要があります。長いねえ。今回の試験は第2相なので、まだ第3相が残っております。認知症治療薬の新薬開発は、いかに対象患者を厳選するかにかかっているそうです。何人集めるつもりか知りませんが、認知症と呼べるかわからないレベルの(つまり、認知症予備軍を含めたごくごく軽度の段階の)人を集めないといけないので、かなり大変だと思います。エーザイさんとバイオジェンさんには頑張ってもらいたいものです。

 水を差すつもりはないのですが、英語の勉強をしていたら面白い記事を見つけました。

Alzheimer's risk 10 times lower with herpes medication

という、アミロイド仮説に喧嘩を売るような記事です。亡くなったアルツハイマー認知症患者さんの脳の組織を調べてみたら、過去ヘルペスウイルスに感染している割合が高かったそうです。もしかしたらヘルペスウイルスの過去の感染がアルツハイマー認知症の発症を招く大きなリスク因子になっているのでは?というものです。ちなみにちゃんと抗ヘルペスウイルス薬を使った人の発症リスクは1/10になっていた、というものです。ヘルペスウイルスはいろんなガンの発症に関わっていると言われていますがアルツハイマー認知症もかよ。詳しくはこの記事に書いてあるそうですので明日読んでみようと思います。

 いずれにせよエーザイ株は高くて買えなくなってしまいました(社員の方は持ち株会で定額積立できるみたいですけど)。第3相試験の結果が出るのは3年後くらいでしょうか?いよいよ大バクチの様相を呈してきた認知症の根本治療・予防薬開発界隈でございます。引き続き界隈のニュースをウォッチしていく所存です。