寿司職人ブログ

人生真ん中あたり

ぼくたちに自由は無い?

科学技術は進歩するところはしっかり進歩しています。そして利便性と人権侵害とは紙一重であります。

 

楽園の日々 アーサー・C・クラークの回想

 ポカリスエットソイジョイで有名な大塚製薬の薬で、エビリファイという統合失調症の治療薬があります。昨年の話題ではありますが、この薬ー正確にはこの薬と一体化させた医療機器ですがーが業界で話題になったそうです。一体どんなものなのでしょうか。日経の記事を引用して紹介します。

大塚製薬は医薬品と医療機器を一体化した「デジタル薬」を世界で初めて実用化した。11月に米食品医薬品局(FDA)から製造販売承認を取得、2018年春にも米国で発売する。抗精神病薬エビリファイの錠剤に極小センサーを内蔵、患者が薬を飲むと信号を発して通知する。薬をきちんと飲んでいるかどうかわかれば、適切な治療や医療費抑制につながる。


デジタル薬「エビリファイマイサイト」は、統合失調症などの進行を和らげる錠剤エビリファイに特殊なセンサーを入れてある。胃の中に入った錠剤が溶けると、センサーが胃液に触れる。するとセンサーから電気信号が出て、患者の腹部に貼り付けた受信用の検出器が信号をとらえる。

次に、検出器から患者のスマートフォンスマホ)へブルートゥースで信号を飛ばす。スマホに取り込んだ専用アプリで情報が管理され、医師は専用サイトを通じて患者のアプリ内の情報をみることが可能だ。

 リンク先の記事はもっと長いですが、話題になった医療機器に関する説明はこれで充分でしょう。要は「デジタルな服薬管理機能付きの錠剤」です。なんでそんな手間を、とお考えの方もおられるかもしれません。このデジタル薬の意義としては以下のように言われています。

統合失調症の患者の4割は、退院してから6カ月たつときちんと薬を飲まなくなってしまう。単純に飲み忘れたり副作用を嫌ったりする。自分が疾患を持っていることを認めない患者もいる。

指導された通りに薬を飲まなければ再発するリスクがある。再入院することになると医療費が膨らむ。倉橋氏は「薬を飲んだのに効いていないのか、そもそも飲んでいないのかが、医師にとって重要な情報」と話す。

アプリには服薬状況や患者のその日の気分も入力できる。患者が同意すれば家族らも服薬状況をサイトで閲覧できる。

患者が体に貼る検出器のパッチには加速度計が入っており、睡眠時の寝返りの状況などを知ることができる。倉橋氏によると、精神病の悪化の兆しはまず睡眠の乱れに表れる。早めに症状を察知できれば適切な治療につなげることが可能だ。

 世間一般で抱いている統合失調症のイメージというと、「CIAに監視されている」「家族が近所中に私の悪口を言いふらしている」などの妄想(明確な反証があっても揺るがない根拠のない信念・確信)を口走るというイメージがありますが、その治療薬であるエビリファイ(デジタル薬)を服用されると、「妄想」が事実となります。実際にデジタルに監視されているわけですから。余計に症状が悪化することはないとは思いますが、どうなのでしょうね。。。

 

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 さて、このデジタル監視機能付きエビリファイですが、エビリファイマイサイトという名前があります。自分の体の中(医学的には消化管は「体外」ですが)にあるわけですから、究極の「マイサイト」ですね。アメリカでは発売されていますが日本で開発する計画は今のところ無いようです。しかしながら多くの議論を惹起したようです。例えば強制入院させられている精神障害者の退院の条件としてエビリファイマイサイトの服用を義務付けられることなどが想定され、人権侵害とみなされる可能性があることなどです。薬の服用は患者(保護者)の意思が何よりも重要であるという患者中心の医療を目指す方々にとっては大きな問題となるでしょう。個人的に興味があるのは、「小さな政府」「個人の自由」を志向するリバタリアンネオリベさんたちが「医療費削減」に資するであろうエビリファイマイサイトをどう評価するか、ということです。医療と監視・管理ーつまりパタナリズム的発想は切っても切り離せませんね。その点中国であれば服薬者の人権を云々言う前に「合理的だからGo」となりそうです。

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 利便性と人権侵害とは紙一重、というのはこういった意味合いを含めて申し上げました。ちなみに統合失調症の発症と睡眠時間についてはrobustな相関があると言われています。よく眠り、疾患フリーで生きていきたいものです。今日も頑張っていきましょう。