寿司職人ブログ

人生真ん中あたり

7兆円の買収劇成るか?デカい取引の影響やいかに?

 日本の製薬企業のなかで一番大きい会社が日本の製薬業界史上最大の買収に王手をかけたようです。

Takeda Nears Deal to Buy Shire in Its Biggest Purchase - Bloomberg

買収をかける側は武田薬品工業、かけられる側はシャイアー(Shire plc)というアイルランド・ダブリンに本社を置く製薬企業です。報道によると買収額は460億ポンド、日本円に換算すると6兆8100億円になるとのことです。

5/8 9時直前の武田薬品工業の板気配はこんな感じです。

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4/19の発表では1株あたり46.50ポンドで取得する提案が拒否されたとのことでした。この拒否された提案のスキームは現金17.25ポンドと28.75ポンド程度の武田薬品工業の新株を対価として組み合わせたものだったようです。今回合意に達した提案内容としては1株あたり49ポンドで、そのうち27.26ポンドを株で21.75ポンドを現金で支払うというもののようです。

 この巨額の買収劇について、同業界の経営者は何と言っているのでしょうか。いくつか紹介します。

まず、ドイツのベーリンガーインゲルハイムという会社のフベルトゥス・フォン・バウムバッハ取締役会会長は

オーガニックグロースを目指していく

と、自社資源の活用で成長していく考えを示しています。

また、日本の大手製薬企業であるアステラス製薬の安川健司社長は

先方がやられていること自体に私どもは興味がない。(略)単なる規模の拡大を求めたM&Aには興味がない。

とバッサリです。とはいえ新規治療技術獲得や重点領域の補強のための買収は否定していません。

また、協和発酵キリンの宮本昌志社長はこの買収劇に対する直接のコメントではありませんが

これなら世界で戦えるという自社創薬したものをいかに出していくかに尽きる。

と発言しています。M&Aよりは自社創薬でパイプラインを充実させたいという旨の発言をしております。

 この買収劇について、同業他社は冷ややかな視線を送っており、大規模M&Aよりは自社創薬またはターゲットを絞ったバイオベンチャーの小規模M&Aを志向している印象を受けます。

 かつてファイザーやノバルティス、グラクソ・スミスクラインなどの超大手グローバル外資系製薬会社は合併に次ぐ合併でそのサイズを大きくしていきました。日本もその流れに追従するように、たとえば第一製薬と三共が合併して第一三共となり(2005年)、藤沢製薬と山之内製薬が合併してアステラス製薬となりました(同じく2005年)。また、外資による日本企業の合併も進みました。中外製薬はロシュに、萬有製薬はメルクにそれぞれ買収されています。

 

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合併により企業規模は増し、パイプライン(開発中、つまり将来的に世に出てくる可能性のある医薬品候補物質のことです)は充実します。しかしその一方で合併する会社同士でカルチャーが異なること、人間関係やポスト争いなどで企業内部に問題が発生し、製品力はあっても研究開発にしろ営業にしろ組織力が活かせず思ったような合併の効果が出ないということもあります。ここはCEOはじめ経営陣の腕の見せ所なのでしょう。

 今回武田薬品工業が買収するシャイアー社の製品は、日本法人で扱っている医薬品としては

・本態性血小板症治療薬「アグリリン」

・ゴーシェ病治療薬「ピプリブ」

・注意欠陥/多動性障害治療薬「インチュニブ」

血友病A治療薬「アドベイト」「アディノベイト」

などがあります。血友病治療薬が充実しているようです。

製品一覧: シャイアーの医薬品の一覧

パイプラインならびに海外でのみ販売されている医薬品については、シャイアー社のアニュアルレポートをご覧ください。メジャーな疾患というよりは、希少疾患に対する治療薬の研究開発に注力しています。武田薬品工業はこれを手に入れるわけですね。パイプラインが豊富です。Shire: Annual Report 2017

 個人的に気になるのはAdderallです。アメリカとカナダのみの発売ですが、ADHDの治療薬として広く使われています。成分はアンフェタミン塩です。かの有名なヒロポンメタンフェタミンです。同じくADHD治療薬のリタリンコンサータメチルフェニデートが主成分です。

 

 

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 先日Netflixでスマートドラッグに関するドキュメンタリーを観ましたが、アメリカではこの種の医薬品が大きな問題になっているようです。また先日読んだ「男子劣化社会」では、実はADHDではないのにこの種の薬が処方されることにより、「ADHDとされた児童」の脳と生活への悪影響が出ていると記載されていました。これで訴訟が起きないと良いのですが。。。(アメリカにおける医薬品の訴訟は賠償額で会社が一気に傾きます)

男子劣化社会

 製薬企業のM&Aから話題が大きく逸れてしまいました。何はともあれ日本のトップ製薬企業である武田薬品工業にさらに注目が集まるでしょうし、同業界の地殻変動があるやもしれません(一昔前に比べると製薬企業のM&Aは当たり前になってきましたけどね)。今後とも製薬企業の方々が接待でうちの店を使ってくれると良いのですが。。。心配ですね。