Think Big, Dream even Bigger
自分の読書体験において一番最初に読んだものといえば野口英世の伝記だったと記憶している。もしかしたらエジソンの伝記だったかもしれない。伝記は、ある高名な人物について家族なり後世の人なりが書き表した、つまり他人伝という形式となる。つまり客観性はある程度担保されている。一方、自伝は自分のことを自分で書く(ゴーストライターがいるのだろうが)ため、読むときには客観的視点に欠けていることを割り引く必要がある。ほんまかいな的読書である。昨日はいま世界で一番注目を浴びている男、アメリカ合衆国大統領、ドナルド・J・トランプの自伝、その名も「トランプ自伝」を読んだ。
書かれたのは1988年、彼が大統領になる2017年1月20日の29年前である。今と比べるとだいぶスマートだ。
この本にはトランプ大統領の生い立ちや20代のかけだし時代からグランドハイアット、トランプタワー、アトランティックシティのカジノ付きホテルを経営するまでのあれこれに加え、アメフトの二部リーグのチームオーナーになってNFLにケンカを売ったときの話など若かりしトランプ氏のビジネス観(勘も)がよく分かる本である。トランプ自身は文筆家でもなく、書かれている内容としては基本的に「○○社の▲▲氏から電話があって□□の取引がどーのこーの」「◎社の■は普段はナイスガイなんだが、取引のときはタフな交渉人なんだ。」的な文章の繰り返しなので退屈といえば退屈である。シンプルで分かりやすい文章といえばそうであるとも言える。
トランプ氏は暴言王と言われるが、トランプ自伝を読む限りはビジネスの場ではそうでもなかっただろうか。面白かったのは、自伝の中で、メディアには良い内容だろうとバッシングだろうと取り上げられることが宣伝になると書いてあったことだ。これが選挙戦中の「暴言」に繋がっているのだろうと思う。あれはわざと言ってたんですよね。また選挙期間中にはエスタブリッシュメントとの対決姿勢を打ち出していたが、その片鱗がこの本からも読み取れる。それはニューヨーク市の市営スケートリンクであるウォルマン・リンクの修繕工事にトランプ氏が関わった出来事を扱う章に特徴的であるが、明確に当時のニューヨーク市政(と市長のエド・コッチ氏)を「無能」と表現していたことだ。トランプ大統領は2017年1月20日の大統領就任演説でこう言っていた。
We will no longer accept politicians who are all talk and no action -constantly complaining but never doing anything about it. The time for empty talk is over.
このときにウォルマン・リンクのことも頭をよぎっていたのではないか?と思う。こういう経験・反発心のようなものが彼のベースにはあるのかなあと思った(もちろんバノン等の振付があったのは重々承知)。
このエントリのタイトルは、実は同じ就任演説の中の一説である。先ほど引用した文章の直前に
Finally, we must think big and dream even bigger. In America, we understand that a nation is only living as long as it is striving.
とある。デカく考えろ。そしてさらにデカい夢を描け、と言っているのである。これは自伝の最初の方に書いてあった言葉でもある。
私は物事を大きく考えるのが好きだ。子供の頃からそうしてきた。どうせ何か考えるなら、大きく考えたほうがいい。私にとってはごく単純な理屈だ。大抵の人は控えめに考える。成功すること、決定を下すこと、勝つことを恐れるからだ。
(64p)
なるほどまさにトランプ大統領的である。そして自身の仕事を通じての「大きく考える」ことの具体例が紹介され、最後にはこう結ばれる。
大きく考えるためのカギは、あることに没頭することだ。(中略)こうした手強い連中を向こうにまわし、彼らを打ち負かすことに、私はたまらない魅力を感じる。
と。これが幸せになるために役に立つかどうかは分からないが、求めるものを手に入れることには役に立つとも書いてあった。意外にと言っては失礼だけど、意外に客観的視点を持ち合わせていると感じた。
まあオススメです。