寿司職人ブログ

人生真ん中あたり

【読書感想文】人工知能と経済の未来

人工知能の本を読むとバラ色の未来を想像。。。できるわけがない。実に暗澹たる思いに駆られるのである。

人工知能と経済の未来 2030年雇用大崩壊 (文春新書)

ジョルジュ・バタイユの批判した概念「有用性」について。「有用性」とは「役に立つこと」

 例えば将来に備えて資格のための勉強をすることを考えてみるー確かに有用ではあるが、それは未来の利益のために現在を犠牲にする営みであるともいえる。現在が未来に隷従させられている。

「役に立つがゆえに価値があるとされるもの」は役に立たなくなった時点で価値を失う。例えば公認会計士の資格は会計ソフトの普及でその価値を失ってしまうかもしれない。バタイユはこの「有用性」に「至高性」という概念を対置した。至高性とは、未来に隷従することなくそれ自体が満ち足りた気持ちを抱かせるような瞬間のことだそうである。

美味しんぼ 111 (ビッグコミックス)

バタイユはこの至高性について

春の朝、貧相な街の通りの光景を不思議に一変させる太陽の燦然たる輝き

に喩えている。ビジネスのtipsやライフハックを有用性とするなら、至高性には情熱を掻き立てるバイロンの詩が挙げられるだろうか。「詩なんてなんの役に立つのか。詩を詠んでも一銭も稼げないだろう」と言う人もいるだろうが、この態度ー有用性にしか尊厳を見出すことができないことーをこそバタイユは批判しているのである。このような言葉で。

天の無数の星々は仕事などしない。利用に従属するようなことなど、なにもしない

と。

バタイユ入門 (ちくま新書)

 人間の価値とは何だろうか。役に立たない、人から社会から評価されることだろうか。例えば勉強ができて医師や弁護士になり仕事を通して社会に貢献し、多額の納税をすることを批判しているわけではない。人間に価値があるとするならば、人間が生きていることそのものに価値を見出すべきではないのか、ということが言いたいのである。そうでなければ我々は汎用人工知能が人間に取って代わる2045年(カーツワイルの予言によると)には人間は能力において価値を失ってしまい、終身生命保険の満期受領額ー保険に入っていない人は0!むしろ葬儀代でマイナスであるーの価値でしかないことを自ら認めることになる。

シンギュラリティは近い[エッセンス版] 人類が生命を超越するとき

 人間が他の生物種と異なる点は高い知能にあるとされている。汎用人工知能はわれわれホモ・サピエンスに「人間の価値とは何か?」という問いを突きつけている。世界が汎用人工知能の開発に血道をあげているが、その目的は「経済成長」である。人工知能が発達しても、それを無視した道を歩んでもどのみち地球上の大多数を占めるわれわれ労働者は職を奪われ経済的困窮に陥るだろうし、何より何より己の「価値」の喪失に苦しむことであろう。そして遅かれ早かれ人はやがて死ぬ。100億年もすれば地球自体が滅びて、宇宙における物質循環のストリームのいち構成元素となり、次の百億年のうちにまた別の生命となっているのかもしれない。たぶんね。

宇宙の誕生と終焉 最新理論で解き明かす!  138億年の宇宙の歴史とその未来 (サイエンス・アイ新書)

なおこのエントリは殆どこの新書のあとがきのパクリである。ジョルジュ・バタイユなんて読んだこともないことをここに表明する。