寿司職人ブログ

人生真ん中あたり

【映画感想文】ペンタゴンペーパーズ 最高機密文書

 ジャーナリストもの映画は2種類に分類される。政治的メッセージがあるものと、強烈な政治的メッセージがあるものに。本作は後者に分類されると俺は思っている。ジャーナリストは社会正義・報道の自由・国民の知る権利をお題目としてペンを振るっている。ゆえに時の政権と対峙する傾向が強い。社会とは政治であり、従ってジャーナリストものが政治色を帯びることは必然なのである(中には「ニュースの天才」的なジャーナリストの自己批判的な作品もあるが)。

 

ニュースの天才 (字幕版)
 

 さてこの映画、「ペンタゴンペーパーズ 最高機密文書」の舞台はベトナム戦争最末期のワシントンD.C.である。当時の大統領はニクソンであったが、過去の大統領すなわちトルーマンアイゼンハワーJFK・ジョンソンたちは表向きはベトナムには派兵しない方針であった。しかし裏ではベトナムに工作し、いざ戦争が起こった時に勝てないであろうと予測していたにかかわらず、結局は「アメリカの誇り」のために国中の若者が密林の戦場に送り出され、あるものは蜂の巣にされ、またあるものはPTSDを発症したり、またあるものは戦地に赴く前に海兵隊関連施設で教官から徹底してしごかれた挙句銃で自殺したり、それはもう酷い目に遭ったわけである。

 

 

 当時の国防長官はマクナマラ長官であり、後世の分析用にと極秘にベトナム情勢・アメリカの関与を記録させまとめておいたのだった。厭戦気分が広まるアメリカにおいて、そんな資料が存在していることがわかったらどうなるか?本作はその極秘文書を国防総省(ペンタゴン)から持ち出した政府の人間と、その文書を公開した2つの新聞社(主にワシントン・ポスト)と、それを潰したいアメリカ政府(というか、共和党ニクソン大統領)の戦いを描いている。その戦いは同時にワシントン・ポストの社主であった前社長の未亡人ケイ・グラハムの新聞社の人間としての成長物語でもある。

 ワシントン・ポスト社主のケイ・グラハムを演じるのは名女優メリル・ストリープであり、ジャーナリスト魂を迸らせる編集主幹ベン・ブラッドリーは名優トム・ハンクスである。特にメリル・ストリープの演技力には脱帽である。見事にゆるふわ女社主から強い女社主への成長を演じ切っている。(しかし、前半部分のゆるふわっぷりは観ててイライラする人もいるんじゃないだろうか)

 ストーリーとしては敵味方が分かれておりシンプルである。シリアスではあるが随所にユーモアのある会社を散りばめている。スピルバーグ監督の映画作りの上手さを実感する。しかし俺はこの映画は良い映画だと思うがメッセージには賛同しない。ニクソンという人物を意図的に人間的にも政治家としても矮小に描いているからだ。ベトナム戦争を集結させ、中国との関係を改善した外交的功績は評価されても良いのではないか。。

 つまりこの映画はハリウッドからのトランプに対する強烈な政治的メッセージである。ジャーナリストよ、こらからも萎縮せずトランプ政権を(アメリカ社会を、ではなく)批判しようということを訴える映画なのである。俺は、マスコミはもはや第四の権力なのにいつまで自分たちを弱い側においておくのだろう?と疑問に思うのだが。。。最高裁判所の階段を降りるメリル・ストリープにあたたかい眼差しを向けるのは皆女性であり、ポリコレ・リベラルへの配慮も抜かりない。これは民主党支持者は喝采ではないか?(最後はニクソン辞職のきっかけとなったあの事件が起こったビルつまり民主党本部も出てくる)

 俺みたいなボンクラでも容易に読み取れる「強烈な政治臭のする」映画だが、映画としては大変面白い。おススメです。80点

 

ニクソンキッシンジャーとあの時代について知りたいならこれを観よう。

 

ウォッチメン (字幕版)